異文化間能力とは?
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これまで、教育者や研究者が「異文化コミュニケーション」を考える時には、異文化同志は全く違っていて境界線があるようなものだと考えがちでしたが、実際は共通点も相違点と同じくらいあったりします。例えば、違う国から来た友人より、同じ日本人でも全く違う地域文化を背負っている人との間により大きな違いを感じることも多々あるはずです。そのように国や民族で区切るのではなく、自分とは違う他者(Other)をいかに理解・受容し、柔軟に対処できるかという能力が異文化間能力です。
バイラム博士のICCモデル
2つ目の科研費研究(基盤B:2016-2019)を構想する際に基礎となったのが、ヨーロッパ評議会言語政策部門顧問のMichael Byram博士が提唱されたIntercultural Communication Competence(ICC)モデルでした。このモデルは、知識面、スキル面、態度面とそれを支える批判的問題対処能力から成り、欧米の様々な教育プロジェクトやプログラムで使われています。Byram博士は、1997年に刊行され多くの研究者や教育者に影響を与えた「Teaching and Assessing Intercultural Communicative Competence (Multilingual Matters)」から24年後の2021年に、その間になされた議論や批判に応える形で、同名の著作をRevisited (問題再訪)として出版されています。
ICCモデル
この科研費研究で使用したAIEという教育ツールも、Byram先生がヨーロッパ評議会のために開発したもので、生徒たちが自ら振り返る行為を通じて異文化に対する意識を高め、徐々に自分なりの対応や考え方を構築していくプロセスを援助するものです。よって、ヨーロッパで使用する際には、教師の介在なく、それぞれの生徒がそれぞれのレベルで自省活動によって成長することを目指す自習ツールとされています。
Interculturalism(異文化間主義)という概念は、Byram先生も関わられたユネスコの宣言(下記に添付)やヨーロッパの様々な試みの目標となっていますが、これまでに存在したMulticulturalismやCross-culturalismとは違います(そこでは、それぞれ違う文化的・民族的背景を持つ人々がグループとして理解しあったり、交流したりするだけです)。右の図に示されているように、Interculturalismでは、一人ひとりが多文化社会の一員として一つの結束した社会を築くために(social cohesion)深く関わり合い協働します。そしてそのためには、違う文化を受容し敬意を持って対応するための知識、意識や態度、考えるスキルが必要となる訳です。上記のバイラム先生の著作には、そういう能力をどういう方法で測るかということも示されており、それは、私たちが作った異文化間能力の指標や評価ツールだけでなく、同時に進行していた挑戦的萌芽研究(2016-2018)における「グローバル人材」の評価方法にも参考になりました。
(UNESCO booklet - Intercultural Competences .pdf)
複言語・複文化アプローチ(FREPA)
日本では英語がまずできるようにならないと、グローバルな世界では成功できないという考え方が強いですが、実際世界の3分の2の国々は多文化・多言語を抱えてそれに適した教育政策を進めています。また、世界の7割以上の人が英語を母語としない(ネイティブ・スピーカーではない)英語使用者である現在では、たとえ世界語としての英語を使っていても、異文化の衝突や誤解は話者の話し方やそこに反映される考え方の違いから、さまざまな形で起こる訳です。
私たちがずっと基本理念としてその要素を取り入れながら教育指標やモデルの作成をしてきたFREPA(Framework of Reference for Pluralistic Approaches to Languages and Cultures) においては、他言語を使えるレベルにはならなくても、未知の言語に触れるだけでその言語の抱える世界観が生徒の視点や考え方をより柔軟にすることに注目します。同様に、様々な文化に触れて自分なりに客観的な比較や判断をすることによって、グローバルな世界の未知の問題に対処しなければならない場合でも、経験から得られた知見や柔軟な理解力をもって複眼的に問題をとらえて対処できるということです。最近はいくつかのプロジェクトの中で、そういう効果が検証もされているようです。
FREPAというプロジェクトはその指標がまずフランス語で作られたので、CARAPとも呼ばれますが、現在ではヨーロッパの多くの国でそれを基にした研修が行われ、指導用のリソースも自由に以下のサイトから入手できます。データベースのところには各国の実践例が掲載されており、それを参考に最も自分の教育環境に合った指導モデルを考えることができます。
「FREPA」サイト:
https://carap.ecml.at/CARAP/tabid/2332/language/en-GB/Default.aspx