成果と授業例

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【 2019年終了の基盤B研究の成果 】

1.各教育レベルの異文化意識の特徴(発達的変化)

 最終的に、大学生326名、高校生122名、中学生166名、小学生192名(内インタビューを19含む)を分析し、異文化に対する意識の発達的変化を見ることができた。

<大学生の反応の特徴>

 まず、大学のグローバル化により、非常に様々な地域からの多世代の人々と遭遇していることに驚かされた。以下が内訳である。

  • Encounters in Japan: 225, Encounters outsideJapan: 101
  • Countries: Asia (10 different countries) (115), North America. (50), Europe (42),Middle East (29), Oceania (incl. Micronesia) (27), Latin America (21),Russia (18), Africa (14), Japanese with different ethnic backgrounds (10)
  • Age: Children (28), University Students (145),Adults (134), Older Adults over 60 (19)

 大学生の反応に見られる特徴は、自分と違う文化を持つ人々に対して、「違う」ということを前提に、「自分たち日本人vs.外国人」と集合的かつ対峙的に捉える姿勢が随所に見られたことである。これは他国でも見られる傾向ではあるが、(1)外国人の中に様々な文化を抱える人々がいてそれぞれが違うことにあまり注意が向いていないこと、そして(2)感想や判断を示すコメントの中にかなりステレオタイプ的で、相手や対象を「十羽ひとからげ(sweeping statements)」に捉えるものが見られ、それが偏見につながる懸念を持った。

<小学生の反応の特徴>

 小学生の場合は、遭遇する外国人が限られるので、地方においては時々授業をしてくれる英語の先生を挙げる生徒も多かったが、そのような限られた体験の中でも、直感的でその時何を感じたかについての素直な反応が多くを占めていた。つまり、相手について判断をしたり決めつけたりすることはなく、純粋に違いに驚き、興味を示し、時に怖がるというような感情表現が多いため、形容詞や形容動詞による表現が圧倒的に多かった。一方、テレビなどのメディアや家族や親戚などの近しい人々の影響を想像させる、ステレオタイプ的な表現も少し見られた。

<中学生・高校生の特徴>

 中学生と高校生の反応は、ちょうど大学生と小学生の間にあり、徐々に大学生に見られた異文化を二元対立的に見るような態度やステレオタイプ的なコメントが増えていた。つまり、多分メディアや周りの人々からの影響が増すにつれ、「この国や民族はこういう人たち」というような刷り込みが増していることが伺えた。以下にそれぞれの教育レベルの学生・生徒が最も使用するメディアの調査結果を示す。

2.AIEの効果

 本研究では自律的な自省ツールであるAIEへの回答を、匿名データとして使用したが、高校生・大学生(特に大学生)については約50問の問いに答える間に、自分の選んだ異文化との遭遇について、改めて深く多面的に考え直すことで、回答経過において考え方や態度の変容が見られた。最初はネガティブに捉えていた外国人とのやり取りについて、自分の方にも非があったかも知れないと考え直したり、最終的には「こうすべきであった、ああすべきであった」というコメントに繋がっていた(大学生の3分の1ぐらいにそれが見られた)。つまり、このツール自体を異文化理解を含む授業に組み込んで、教師が教え込む形ではなく異文化意識の向上や異文化間能力の獲得をバックアップする可能性が示された。
 また、このAIEを自分でやった経験から何を得たかという最後の質問に関して、以下の3つの回答が多く得られたのは、学生の言語や文化に関する意欲を高める効果を示していると思う。

  1. もっと外国語(英語)を勉強して、世界の人々と交流したいと思った。
  2. もっと世界のいろいろな文化について知りたいと思った。
  3. 将来、海外に行って、違う文化を自分で経験したいと思った。

3.足場掛けの必要性

 以上の結果から、まだ異文化体験も少なく、ステレオタイプ的なものの見方が浸透していない小学校や中学校からの足場掛けとしての異文化理解教育が必要だと感じた。実際、少数ではあるが、継続的に1時間の授業を数回続けたクラスでは、異文化への興味が増すと同時に、異文化への理解・受容において、偏見なく自ら考える態度が育っている様子がAIEの分析結果に見られている。これらの分析結果を基に足場掛けとしての様々な授業形態を試行したが(以下に代表的な授業例を示した)、効果は生徒の属性と同時に、教育環境(地域性、教育機器の充実度など)によるため、それぞれの教育レベルごとに実情に合ったものを選べるように提案を行った。

【 授業例 】

様々な小学校、中学校、高等学校に出向いて異文化理解教育の模擬授業をしています。以下に授業例を紹介します。

小学校の授業例

  1. 様々な外国人が登場するビデオを見て、興味のある国や文化について知っていることを話し、同じ国や文化について違う意見がでれば全員で考える。
  2. 外国人留学生から、日本人のいいところ、あまりいいと思わないところをビデオ・メッセージにしてもらい、それについてグループやクラスで話し合う。
  3. 留学生を数人連れていってグループごとに質問をしてもらい交流をする。その際、お互いが誤解していたこと、思い込んでいたことなどについて話し合う。

ここ3年間はオンラインで実施しました。1つのクラスが3グループに分かれて、3つの国の留学生の待つブレーク・アウト・ルームを交代で訪問し、留学生の説明を聞いて質問や交流をしました。


中学校の授業例

  1. 留学生を数人連れていって(それが無理ならビデオメッセージで)、日本に来て戸惑ったことや困ったことについて話してもらい、何が原因でそうなるのか、解決策は何かを皆で考える。
  2. 今まで文化の違う人と遭遇した中で、一番印象に残っていたり、インパクトがあった経験をグループで話す。いくつか代表例を取り上げて、偏見や思い込みはなかったか考える。
  3. 日本で起こった差別の例について、何が差別につながるのか、どうしたらそういう差別を無くせるのか話し合う。

大学・高校授業例

  1. 留学生にいくつか日本や日本人への不満や苦情を紙に書いてもらい、それについてグループで議論する。
  2. 外国の教室とビデオ・カンファレンスシステムでつないで、お互いの国についてプレゼンをした後、質問会や議論をする。
  3. 日本人がステレオタイプ的におもしろおかしく描かれている外国の映画のシーンやCMを見せて、自分たちも他国の人に同じことをしていないか考える。
  4. メディア・リタラシー:同じことについて2つの国の意見や見方が全く違う場合をニュース・メディアによって示し、その原因、解決策を考える。