各年の実績

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【 2019年終了の基盤B研究の実績報告書 】

2016年度の実績

 本研究の目的は、まず、ヨーロッパ評議会言語政策部門によって異文化間能力(Intercultural Competence)養成のために開発され、ヨーロッパで広く使われている自律的省察ツール、「Autobiography of Intercultural Encounters (AIE)」の通常版と子供版を、日本の小学校から大学に至る教育現場に導入し、その効果を検証すること、次に、これを基に指導方法、カリキュラム、評価方法などを開発し、言語教育や異文化理解教育における異文化対処能力と問題解決能力養成のための一貫教育モデルを構築することである。1年目の以下4点の目的はほぼ達成された。

  1. AIEについて、ヨーロッパにおける使用状況と実践例、効果の検証を含む研究成果を、特に発達指標作成の可能性に注目して収集・検討した。
  2. 上記の調査結果を精査して、日本の現状と将来的なニーズに合ったAIEの導入方法を考察・確定した。その際、AIE開発者のマイケル・バイラム博士、ヨーロッパ近代言語センター(ECML)のFREPAプロジェクトのリーダーやメンバーから助言を頂いた。
  3. AIEの通常版と子供版の翻訳を完成し、両者の入力を全てオンラインで行えるシステムを構築した。初年度から2年間にわたって実験を行う小学校から大学までの様々な英語の授業、及び一般的な異文化理解教育の授業について、連携研究者、協力者を通じて各教育レベル10クラスずつを確保して、承諾書の作成・送付・担当教員との打ち合わせなどの準備を進めた。
  4. 子供版は基本的に個別インタビューを想定しているので、一斉授業で行えるかどうか 小学校5年生の2クラスを使って試行を行った。その結果、小学生に関しては個別インタビューの方がより意味のある反応が収集できることが分かったため、実験対象の半分をインタビューに切り替える予定である。

2017年度の実績

2年目に当たる2017年度は、1年目の小規模な実験的実施から得られた知見や反省点を基に、以下のように本格的実験を開始した。

  1. 様々な教育環境やニーズを代表する小学校、中学校、高等学校、大学について、いくつかの導入モデルを教材と共に開発し、実験を行った。それぞれ約10クラスで授業をし、AIEで反応を収集する予定であったが、中学校と高等学校の協力校とうまく実験スケジュールが合わなかったため、半分の5校(5クラス)ずつを来年に回すことにした。実験をしながら、導入モデルや教材が合わない場合は修正をし、それぞれ4種類ぐらいのパターンを完成させることができた。
  2. 実験をしてみると、低学年の生徒により顕著な異文化への気づきや態度の変化などが見られたが、異文化間能力の伸びという側面から効果の比較検証を行うために、バイラム博士とその研究グループが明らかにしている異文化間能力の構成要素を基に、小・中学校用と高校・大学用の二種類の評価ツールを作成した。その際、一部の学校で行った授業観察とその分析結果を参考にし、日本の環境に合わないものは修正や調整を行った。
  3. 来年度の実験校を手配する際に、これまで実験数が十分でなかった高等学校と、英語版をそのまま使用できるような学校を特に重点的に揃えた。

2018年度実績

3年目に当たる2018年度は、2年目の網羅的実験の結果に対して詳細な分析や考察を行った後、各教育レベルの指標をCan-doチェックリストとしてまとめ、それに基づいて考案した8種類の教育モデル(英語教育、異文化理解教育各4種類)に対して必要な追加実験を行った。その詳細は以下である。

  1. 昨年十分ではなかった中学校と高等学校での実験、特に英語による実践を4クラスずつ追加し、英語の授業と異文化理解教育の授業でのAIE利用実験の比較に加えて、英語での実施と日本語での実施の比較も行った。更に、ヨーロッパと日本のデータを比較して、日本の学習者の特徴を明らかにし、それを基に指導方法、教材に修正を加えた。
  2. 統計的な検証と同時に、Moodle上のログとして残された全ての回答データのテキスト分析(データ・マイニング)を行い、更にビデオに記録された授業の分析、教員に対するアンケートやインタビューの分析などの様々な質的分析を行った。
  3. 上記のような総合的・多面的な分析結果と異文化間能力の構成要素を対照しつつ、段階的な教育目標を指標化してCan-doチェックリストにまとめた。最終年には、AIEによってどの程度「自律的内面化」がなされているかを更に詳細に分析し、8種類の一貫カリキュラム及び教育モデルを最適化するための確認実験を行う。

2019年度実績

 第一の目的はこれまでのデータで十分達成されたので、今年度は、第二の目的である異文化間能力の一貫教育モデルの最適化を行い、結果を研究会、ウェブサイトや出版物などの様々な形で公開・共有した。具体的には、小学校から大学までの英語の授業と一般的な異文化理解教育の授業について、授業タイプ別のAIEを用いた異文化間能力養成教育のモデル化、その精緻化を図った。そのために、各教育レベルにおいて、より効果が見られた状況・教材・タスクや指導方法を選択し、それを修正・調整したり組み合わせたりして、小学校から一貫教育として異文化間能力養成を行うための総合的かつ複線型の教育モデルを提案した。